ポストFIT時代への備え

ポストFIT時代の企業再エネ調達:自家消費設備をサステナビリティ経営にどう活かすか

Tags: サステナビリティ経営, 自家消費, 法人, RE100, 非化石証書

はじめに

FIT(固定価格買取制度)による買取期間が順次終了していく中で、多くの企業が保有する太陽光発電設備は新たな運用フェーズを迎えています。これまで売電収入が主要なメリットの一つであったこれらの設備は、ポストFIT時代において、企業のエネルギー戦略およびサステナビリティ経営の中で再定義される必要があります。

特に、エネルギー関連企業の新規事業開発担当者の皆様にとっては、この変化は、FIT終了を迎えた企業顧客への新たなソリューション提案や、自社の再エネ事業ポートフォリオの再構築に向けた重要な機会を意味します。本稿では、ポストFIT時代の企業が保有する自家消費設備を、単なる電力供給源としてだけでなく、サステナビリティ経営の中核資産として最大限に活用するための戦略と、そこから生まれるビジネス機会について考察します。

FIT終了を迎える企業設備を取り巻く現状

FIT制度の下で設置された企業向けの太陽光発電設備は、その多くが余剰電力の売電を前提としていました。FIT期間終了後、これらの設備で発電された電力の買取価格は、 FIT開始当初の高い水準から大幅に低下します。これにより、売電収入に依存した事業モデルは成り立たなくなり、設備の経済合理性を維持するためには新たな方策が不可欠となります。

一方で、現代の企業経営においては、気候変動対策や脱炭素化への取り組みが不可欠な要素となっています。RE100のような国際的なイニシアティブへの参加、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示、サプライチェーン全体での排出量削減(Scope 3)への対応など、企業は自社の事業活動に伴う環境負荷の低減を強く求められています。再エネの導入は、これらのサステナビリティ目標を達成するための重要な手段の一つです。

この二つの大きな流れ、すなわち「FIT終了による経済性の変化」と「サステナビリティ経営の深化」が交錯する点が、ポストFIT時代における企業向け自家消費設備の戦略的活用の出発点となります。

サステナビリティ経営における再エネ自家消費設備の戦略的位置づけ

FIT終了後の自家消費設備は、売電収入源としての価値は低下しますが、発電した電力を自社の事業活動で消費することにより、外部からの電力購入量を削減し、電気料金コストを抑制する効果は継続します。これに加え、環境価値の創出源としての重要性が増します。

具体的には、自家消費された電力は、電力系統からの電力購入と比較してCO2排出量が大幅に少ない、あるいはゼロであると見なされます。これは、企業のGHG(温室効果ガス)排出量削減目標達成に直接貢献します。特に、Scope 2排出量(購入した電力、熱、蒸気の使用に伴う間接排出)の削減において、自家消費は最も直接的かつ効果的な手段の一つとなります。

また、自家消費によって創出された環境価値は、非化石証書(トラッキング付非化石証書含む)として認証され、他の事業拠点での電力消費に伴う排出量削減に充当したり、外部に売却したりすることも可能です。これにより、自家消費設備は単一拠点のコスト削減ツールから、企業全体のサステナビリティ戦略を推進する資産へと位置づけが変わります。

FIT終了設備をサステナビリティ経営に活かす具体的な戦略

FIT終了を迎える企業が、自社の再エネ自家消費設備を最大限に活用し、サステナビリティ経営に貢献するための具体的な戦略としては、以下のようなアプローチが考えられます。

  1. 自家消費率の最大化:

    • 発電した電力を可能な限り自社の敷地内で消費することで、購入電力量を削減し、CO2排出量を抑制します。
    • 蓄電池の導入: 発電量と電力需要のピークタイムのずれを解消し、自家消費率を向上させます。夜間や休日など、発電量が余剰となる時間帯の電力を貯蔵し、必要な時に利用します。
    • エネルギーマネジメントシステム(EMS)の最適化: 設備の稼働状況、電力需要、市場価格などをリアルタイムで分析し、自家消費が最大化されるように設備(太陽光、蓄電池、負荷機器)を制御します。
    • デマンドレスポンスとの連携: 電力価格が高い時間帯や系統負荷が高い時間帯に、蓄電池からの放電や設備稼働の調整により、購入電力を抑制し、自家消費を促進します。
  2. 環境価値の積極的な活用:

    • 非化石証書化とトラッキング: 自家消費した電力の環境価値を非化石証書として取得し、トラッキング情報を付与することで、その再エネが自社の設備由来であることを証明します。
    • オフセットとしての活用: 取得したトラッキング付非化石証書を、別の事業拠点やグループ会社の電力使用に伴う排出量削減に充当します。これにより、企業全体のScope 2排出量削減目標に貢献します。
    • サプライチェーン排出量(Scope 3)への貢献: 自社の事業活動で発生するScope 3排出量(例:製品製造における電力使用)について、自家消費による再エネ利用をアピールすることで、顧客やサプライヤーの脱炭素化目標達成を支援する価値を創出します。
  3. 複数拠点間での電力融通(自己託送・PPA):

    • 自己託送制度の活用: 敷地内で自家消費しきれない余剰電力を、自己託送制度を利用して離れた自社またはグループ会社の拠点に送電し、そこで消費します。これにより、企業グループ全体での再エネ利用率を高め、購入電力の削減とCO2排出量削減を同時に実現します。
    • コーポレートPPA: 第三者所有モデルやオフサイトPPAを活用し、自社設備の余剰電力、あるいは新たに設置した再エネ設備からの電力を、他の拠点に供給する契約形態を構築します。
  4. BCP(事業継続計画)対策としての機能強化:

    • 自立運転機能と蓄電池: 災害等による停電時にも、自家消費設備と蓄電池を連携させることで、最低限必要な電力供給を確保します。これは、事業継続性の観点からも企業にとって重要なメリットとなります。
  5. 企業イメージ向上とステークホルダーエンゲージメント:

    • 再エネ自家消費への積極的な取り組みは、企業の環境意識の高さを対外的にアピールする強力なツールとなります。顧客、投資家、従業員、地域社会からの信頼獲得やブランドイメージ向上に貢献します。
    • 発電設備の状況や再エネ利用状況を「見える化」し、社内外に共有することで、従業員の環境意識向上や地域との連携強化にも繋がります。

ポストFIT時代の企業向けサービスにおける新規事業機会

これらの企業戦略を支援するサービスは、エネルギー関連企業にとって大きな新規事業機会となります。

法規制・政策動向への留意点

これらの戦略を実行する上では、関連する法規制や政策動向を注視する必要があります。自己託送制度の要件、非化石証書制度の詳細、今後のFIP制度移行に伴う市場環境の変化、および再エネ導入や蓄電池導入に関する国の補助金制度などが影響します。これらの最新情報を正確に把握し、顧客への提案や自社サービス開発に反映させることが重要です。

まとめ

ポストFIT時代の企業の太陽光発電設備は、かつての売電収入源から、コスト削減に加え、サステナビリティ経営を推進し、企業価値を高めるための戦略的な資産へとその役割を変化させています。自家消費の最大化、環境価値の活用、BCP対策への貢献、そして企業イメージ向上など、その活用方法は多岐にわたります。

エネルギー関連企業の新規事業開発担当者の皆様にとっては、こうした企業のニーズと課題を深く理解し、 FIT終了設備の新たな価値を引き出すための包括的なソリューションを提供することが、ポストFIT市場における競争優位性を確立するための鍵となります。単なる電力供給に留まらず、企業のサステナビリティ目標達成を支援するパートナーとしての役割を果たすことで、新たなビジネス機会を掴むことができるでしょう。