ポストFIT時代に広がる法人向け脱炭素コンサルティング事業の可能性と戦略
ポストFIT時代における企業の脱炭素ニーズとコンサルティング事業の重要性
固定価格買取制度(FIT)の買取期間が終了した電源が増加し、再エネ市場は新たな段階へと移行しています。このような「ポストFIT時代」において、エネルギー関連企業の事業環境は大きく変化しています。同時に、国内外での脱炭素への機運はかつてないほど高まっており、多くの法人企業が自社の事業活動におけるCO2排出量削減に喫緊の課題として取り組んでいます。
特に、サプライチェーン全体での排出量(Scope 3)の可視化・削減や、RE100、TCFDといった国際的なイニシアティブへの対応が求められる中で、法人企業は複雑化する脱炭素戦略の立案と実行に課題を抱えています。このような背景から、専門的な知識とノウハウを持つ外部パートナーへのニーズが増大しており、エネルギー関連企業にとって、法人向け脱炭素コンサルティング事業は新たなビジネス機会として注目されています。
多様化する法人企業の脱炭素ニーズ
法人企業が抱える脱炭素に関する課題は多岐にわたります。
- 排出量の算定・可視化: Scope 1, 2, 3排出量の正確な算定方法の確立と、サプライチェーンを含む全体の排出量の可視化。
- 目標設定とロードマップ策定: パリ協定の目標に整合した科学的根拠に基づく目標(SBT)の設定や、目標達成に向けた具体的なロードマップの策定。
- 再エネ導入戦略: 自家消費、PPA(電力購入契約)、非化石証書購入など、多様な再エネ調達手法の中から最適な方法の選択と実行。
- 省エネルギー対策: 最新の技術やデータ分析を活用した効果的な省エネルギー施策の特定と実施。
- サプライチェーンへの働きかけ: サプライヤーに対して排出量削減目標の設定やデータ提出を求めるなど、サプライチェーン全体での削減推進。
- 情報開示と報告: CDP、TCFD、ESG評価機関などへの情報開示要請への対応と、ステークホルダーへの適切なコミュニケーション。
- 新規事業・サービス開発: 脱炭素を経営戦略の中核に据え、新たな環境配慮型製品・サービスの開発。
これらの課題に対し、多くの企業は自社だけでは解決が難しく、専門家の支援を求めています。
ポストFIT電源を活用した脱炭素コンサルティングの可能性
ポストFIT時代に増加する卒FIT太陽光発電などの分散型電源は、法人企業の脱炭素戦略において重要な役割を果たし得ます。
- 自家消費の最適化: 既存または新規の再エネ設備による自家消費を最大化し、電力購入量の削減とCO2排出量削減を同時に実現。
- オンサイトPPA/オフサイトPPAの導入支援: 企業の拠点敷地内や遠隔地に設置された再エネ設備からの電力供給をPPA契約を通じて受け入れるスキーム構築支援。ポストFIT電源の活用や新規開発案件のアレンジを含みます。
- 環境価値取引の活用: 非FIT非化石証書やJ-クレジットなどを活用した実質再エネ化・排出量オフセット戦略の提案と実行支援。特に、卒FIT電源由来の環境価値を活用するスキームは新たな選択肢となります。
- 再エネ設備のアセットマネジメント: 既存再エネ設備の効率的な運用、メンテナンス、リパワリング、または売却・撤去に関するコンサルテーション。
エネルギー関連企業は、これらの分散型電源や再エネ市場に関する深い知見と、設備導入・運用の実績を持つことが強みとなります。これを活かし、単なる計画策定に留まらず、具体的な再エネ設備導入や電力調達の実行支援まで一貫したサービスを提供することが可能です。
新規事業としての脱炭素コンサルティング事業戦略
エネルギー関連企業が法人向け脱炭素コンサルティング事業を展開する上での戦略的視点とビジネスモデルを以下に示します。
1. 提供価値の明確化と差別化
自社の核となる強み(例:電力系統への知見、特定の設備技術、地域での顧客基盤、データ分析力など)を活かし、どのような価値を提供できるかを明確にします。単なる一般的な脱炭素対策の提案ではなく、エネルギーの専門家だからこそ可能な、技術的・経済的に最適なソリューション提供を前面に出します。例えば、
- エネルギー使用状況や設備の詳細なデータに基づいた、実行可能かつ効果の高い省エネ・再エネ導入計画。
- 電力市場の動向(市場価格連動、系統制約など)を踏まえた、PPAや自家消費の経済性評価とリスク分析。
- 複数の脱炭素手段(再エネ導入、省エネ、蓄電池、EMS、EVなど)を組み合わせたトータルソリューションの提案。
2. ビジネスモデルの検討
収益モデルは、提供するサービス内容や顧客のニーズに応じて多様に考えられます。
- フィー型: コンサルティングサービス(診断、計画策定、実行支援)に対して固定または時間ベースのフィーを課金。
- 成果報酬型: CO2排出量削減目標の達成度合いや省エネルギー効果に応じて報酬を決定。
- サービス連携型: コンサルティングを入口として、再エネ設備の販売・リース、PPA契約のアレンジ、電力供給契約、O&Mサービスなど、他の事業と連携させて収益を最大化。エネルギーサービスプロバイダー(ESP)としての包括的なサービス提供を目指します。
- プラットフォーム型: 脱炭素データ管理やサプライチェーン連携を支援するデジタルプラットフォームを開発し、サブスクリプションモデルで提供。
3. 事業展開上の課題と対策
- 専門人材の育成: 脱炭素に関する幅広い知識(エネルギー技術、法規制、会計、ファイナンス、サプライチェーン、報告基準など)を持つ人材の育成や外部からの招聘が必要です。
- 法規制・制度への追随: 再エネ関連法規、カーボンプライシング、補助金制度などは常に変動するため、最新情報の継続的な収集と理解が不可欠です。
- データ活用能力の強化: 顧客のエネルギーデータ、事業データ、サプライチェーンデータを分析し、最適なソリューションを導き出すためのデータ収集・分析基盤とスキルが必要です。
- 競争環境への対応: エネルギーコンサルティング会社だけでなく、会計事務所、ITベンダー、総合商社など、異業種からの参入も増加しており、自社の強みを活かした差別化戦略が求められます。
展望:デジタル技術との連携とサステナビリティ経営への広がり
脱炭素コンサルティング事業は、今後さらに高度化し、企業のサステナビリティ経営全体へと広がりを見せるでしょう。
- DXの推進: IoTによるエネルギーデータ収集、AIによる最適化分析、ブロックチェーンを活用した環境価値トラッキングなど、デジタル技術の活用はコンサルティングサービスの質と効率を飛躍的に向上させます。デジタルツインを活用した設備運用・最適化シミュレーションも有効です。
- サプライチェーン連携の深化: サプライヤーの排出量データを収集・管理し、削減目標設定や施策実行を支援するプラットフォーム提供など、サプライチェーン全体を巻き込んだサービスが重要になります。
- ESG投資との連携: 企業の脱炭素への取り組みをESG評価向上に繋げるための戦略策定や情報開示支援など、金融・投資家視点からのコンサルテーションニーズも高まります。
- 新たな金融・保険サービスとの連携: グリーンボンド発行支援や、再エネ設備の運用リスクに対応した新たな保険・保証サービスとの連携も考えられます。
ポストFIT時代は、単に売電収入が減少するだけでなく、エネルギー市場全体が分散化、デジタル化、そして脱炭素という強い潮流によって変革される時代です。エネルギー関連企業は、これまでの事業で培った専門性を基盤に、法人企業の深刻な脱炭素ニーズに応えるコンサルティング事業を展開することで、新たな収益の柱を確立し、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。
まとめ
ポストFIT時代の到来と法人企業の高まる脱炭素ニーズは、エネルギー関連企業にとって法人向け脱炭素コンサルティング事業という新たな事業機会をもたらしています。この事業は、エネルギー技術、市場、法規制に関する専門知識を活かし、企業の排出量算定から目標設定、具体的な再エネ導入・省エネ対策実行、サプライチェーン連携、情報開示まで、幅広いソリューションを提供することで差別化を図ることができます。
事業展開には、専門人材の育成、法規制への対応、データ活用能力の強化といった課題が存在しますが、デジタル技術との連携や、サステナビリティ経営全体へのサービスの拡大を通じて、その可能性は大きく広がります。エネルギー関連企業が持つ既存のアセットと知見を最大限に活用し、法人企業の脱炭素を強力に支援することは、ポストFIT時代における新たな成長戦略となり得るでしょう。