ポストFIT時代への備え

ポストFIT時代の系統容量問題:再エネ接続・出力抑制の現状と事業戦略

Tags: 電力系統, 出力抑制, 再エネ事業, ビジネス戦略, VPP

はじめに:ポストFIT時代における再エネ普及と系統問題の顕在化

FIT制度の開始以来、日本の再生可能エネルギー(再エネ)導入量は飛躍的に増加しました。特に太陽光発電は、その導入コストの低下とFITによる固定価格買取保証によって、個人・法人を問わず急速に普及しました。しかし、FIT買取期間の終了を迎える発電所が増加するポストFIT時代においても、再エネの導入拡大は脱炭素化目標達成のために喫緊の課題であり続けています。

再エネの主力である太陽光や風力は、天候に左右される変動電源です。このような変動電源が電力系統に大量に接続されることで、系統の安定性維持や容量に関する課題が顕在化しています。特に、電力需要が少ない時間帯や晴天・強風時には、発電量が需要を上回り、系統の許容量を超える可能性があります。これが、再エネの「接続保留」や稼働中の発電所に対する「出力抑制」といった問題を引き起こしています。

エネルギー関連企業の事業開発担当者にとって、この系統容量問題はポストFIT時代の新たな事業機会を検討する上で避けて通れない重要な論点です。本記事では、ポストFIT時代における系統容量問題と出力抑制の現状、事業への影響、そしてこれらに対する技術的・制度的・事業戦略的な対策、さらには新たなビジネス機会について解説します。

系統容量問題と出力抑制の現状

電力系統の容量は、電力の安定供給を維持するために物理的に制約されています。特定のエリアにおいて再エネ発電所の接続希望が急増すると、既存の送配電設備の容量が不足したり、系統の電圧や周波数の安定維持が困難になったりするリスクが高まります。これにより、電力会社は新たな再エネ発電所の系統への「接続保留」を判断せざるを得ない状況が発生しています。特に、再エネ導入が進んでいるエリアや、系統インフラが十分に整備されていない地域でこの問題は顕著です。

また、既に系統に接続されている再エネ発電所に対しても、「出力抑制」が実施されています。出力抑制とは、電力系統の安定性を保つために、発電事業者に対して発電量を一時的に抑制するよう指示するものです。九州電力管内での大規模な出力抑制の事例は広く知られていますが、現在では他のエリアでも抑制実施日が増加傾向にあります。出力抑制は、発電事業者にとっては売電収入の減少に直結するため、事業の予見性や収益性に大きな影響を与えます。

経済産業省や電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、系統情報の開示や、系統増強計画の策定などを進めていますが、送配電設備の増強には多大な時間とコストがかかるため、問題の根本的な解決には時間を要すると考えられます。

ポストFIT時代の事業への影響

FIT制度下では、出力抑制による売電収入減のリスクは一部補填される制度もありましたが、FIP制度への移行が進む中で、出力抑制リスクは直接的な収益減少として事業者に重くのしかかります。また、新規で再エネ発電事業を計画する場合、希望する地点での系統接続が困難であったり、多額の系統増強費用を負担する必要があったりするケースが増えています。

これは、単に発電事業の採算性を悪化させるだけでなく、企業の脱炭素経営目標(RE100など)の達成に向けた再エネ調達計画にも影響を及ぼします。自家消費型モデルやPPAモデルも、系統容量の制約を受ける可能性があります。

系統容量問題に対する対策とビジネス機会

系統容量問題と出力抑制リスクに対応し、ポストFIT時代の再エネ事業の可能性を広げるための対策は多岐にわたります。これらの対策は、同時に新たなビジネス機会の源泉ともなり得ます。

1. 技術的対策

2. 制度的対策

3. 事業戦略上の対策

まとめ:系統問題への対応がポストFIT時代の競争力に

ポストFIT時代において、再エネの主力電源化を推進する上で、電力系統の容量問題と出力抑制は避けて通れない重要な課題です。これらの課題は、従来の系統売電中心のビジネスモデルにおいてはリスク要因となりますが、同時に、技術革新や制度改革、柔軟な事業戦略によって克服すべき課題であり、新たなビジネス機会の源泉でもあります。

エネルギー関連企業の事業開発担当者の皆様にとっては、単に発電所の建設・運営だけでなく、蓄電池、EMS/DERMS、VPP、さらには系統情報の分析や市場取引支援といった、系統運用や最適化に関連する新しい技術やサービスに焦点を当てることが、ポストFIT時代の激しい競争を勝ち抜く上で不可欠となります。系統制約を理解し、それに対応するための技術や制度、そして事業戦略を深く掘り下げることが、持続可能な再エネビジネスモデルを構築する鍵となるでしょう。