ポストFIT時代への備え

ポストFIT時代における電力トレーサビリティ技術の重要性:ブロックチェーン等の活用とビジネス機会

Tags: 電力トレーサビリティ, 環境価値, 非化石証書, ブロックチェーン, 新規事業, ポストFIT

ポストFIT時代における電力トレーサビリティ技術の重要性:ブロックチェーン等の活用とビジネス機会

固定価格買取制度(FIT)の期間が終了し、再エネ電源の市場への統合が進むポストFIT時代においては、電力そのものの価値に加え、「いつ、どこで、どのような方法で発電されたか」といった付帯する情報や環境価値の重要性が増しています。特に、企業によるRE100達成目標やサプライチェーン全体の脱炭素化要求の高まりを背景に、使用する電力が再生可能エネルギー由来であることを証明する「電力トレーサビリティ」への関心が高まっています。

本記事では、ポストFIT市場における電力トレーサビリティ技術の重要性と、それがエネルギー関連企業にどのようなビジネス機会をもたらすのかについて解説いたします。

電力トレーサビリティ技術とは

電力トレーサビリティ技術とは、電力が発電されてから消費されるまでのプロセスにおいて、その発電電源の種類、発電場所、発電時間などの情報を追跡・記録・証明するための技術や仕組みを指します。従来の電力系統は、大量の電力をまとめて供給する中央集権型であり、個々の消費電力がどの電源由来かを特定することは技術的に困難でした。

しかし、再エネの普及による分散型エネルギーリソース(DER)の増加、スマートメーターの導入拡大、そしてデジタル技術の進化により、より詳細な電力の流れや属性情報を把握することが可能になってきています。

主なトレーサビリティ関連技術・手法には以下のようなものが挙げられます。

ポストFIT市場におけるトレーサビリティ技術の重要性

ポストFIT時代において、電力トレーサビリティ技術は以下の点でその重要性を増しています。

  1. 環境価値取引の信頼性向上: 非化石証書やグリーン電力証書、J-クレジットといった環境価値取引は、企業が再エネ利用を証明し、脱炭素目標を達成するための重要な手段です。トレーサビリティ技術は、これらの証書が特定の再エネ発電量に正確に紐づいていることを保証し、二重計上を防ぐことで、環境価値取引市場全体の透明性と信頼性を高めます。特に、FIP制度下での市場価格連動型取引や、相対契約(PPAなど)による電力調達が増える中で、電源特定と証明の重要性は一層高まります。

  2. 企業の再エネ調達戦略の高度化: RE100などのイニシアチブに参加する企業は、単に再エネを購入するだけでなく、「どの地域の」「どの発電所の」「いつ発電された」再エネを使用しているかに関心を持つようになっています。高精度なトレーサビリティは、企業が自社の拠点に近い再エネ電源を選択したり、特定の時間帯の消費量に合わせて再エネ調達を最適化したりすることを可能にし、より戦略的な脱炭素経営を支援します。

  3. 分散型エネルギーリソース(DER)の効率的な管理: 蓄電池、EV、家庭用燃料電池などのDERが普及し、地域内で電力を融通する動きが進む中で、個々のDERの発電量や充放電状況を正確に把握し、追跡することは系統安定化や地域内最適化に不可欠です。トレーサビリティ技術は、DERから発生する多様なデータを統合・管理し、需給調整や新たなサービス提供の基盤となります。

  4. 地域内電力融通・相対取引の活性化: 特定地域内の再エネ電源と需要家を直接結びつける地域内PPAや相対取引において、トレーサビリティは必須の要素となります。地域住民や企業が、自分たちの地域で発電された再エネ電力を消費していることを明確にすることで、地域エネルギーへの関心やエンゲージメントを高め、地域経済の活性化にも貢献する可能性があります。

新たなビジネス機会の創出

電力トレーサビリティ技術の進化は、エネルギー関連企業に多様な新規事業機会をもたらします。

導入における課題と展望

電力トレーサビリティ技術の本格的な普及には、いくつかの課題が存在します。技術的な標準化が進んでおらず、異なるシステム間でのデータの相互運用性が低いこと、高頻度・大容量のデータを処理するためのコスト、そして最も重要なデータプライバシーとセキュリティの確保が挙げられます。また、既存の非化石証書システムとの整合性や、法規制の整備も必要となります。

しかしながら、脱炭素化への世界的潮流とデジタル技術の進化は、電力トレーサビリティ技術の発展を後押ししています。今後は、技術の標準化が進み、コストが低減されるとともに、より高度で信頼性の高いトレーサビリティシステムが構築されていくと予想されます。

まとめ

ポストFIT時代においては、電力の「量」だけでなく「質」や「由来」が問われるようになります。電力トレーサビリティ技術は、再エネの環境価値を正確に評価し、取引し、証明するための基盤技術であり、脱炭素社会の実現に不可欠な要素です。

エネルギー関連企業の新規事業開発担当者様にとっては、このトレーサビリティ技術を深く理解し、既存事業との連携や、新たなサービス・プラットフォーム構築の可能性を探ることが、ポストFIT市場における競争優位性を確立する上で非常に重要となります。技術的な動向、関連する法規制や制度の変更を注視しつつ、データの活用戦略と組み合わせることで、新たなビジネス機会を積極的に創出していくことが求められています。