ポストFIT時代の再エネ政策動向:FIP制度への移行と事業者の備え
はじめに
再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)は、日本の再エネ普及を大きく推進しましたが、FIT買取期間の終了を迎える電源が増加しています。これに伴い、ポストFIT時代における再エネ事業のあり方が問われています。さらに、政府は再エネの主力電源化に向けた新たな支援制度として、フィードインプレミアム(FIP制度)を導入しました。
このFIP制度への移行は、特にこれから再エネ事業への参入や既存事業の拡大を検討されている企業の新規事業開発担当者様にとって、事業計画の根幹に関わる重要な変化です。本記事では、ポストFIT時代の主要な政策動向であるFIP制度に焦点を当て、FIT制度との違い、事業者に与える影響、そしてこの変化に対応し、新たな機会を捉えるための具体的な備えについて詳述します。
FIT制度からFIP制度への移行とその背景
FIT制度は、再エネで発電した電気を国が定めた価格で一定期間、電力会社が買い取ることを義務付ける制度でした。これにより、事業者は長期的な収益の見通しを立てやすく、投資リスクを低減することができました。しかし、再エネ導入が進み、コストが低下するにつれて、FIT制度による国民負担が増加するという課題が顕在化しました。
FIP制度は、このような課題に対応しつつ、再エネを電力市場に統合し、自立を促すことを目的として導入されました。FIP制度では、事業者は発電した電気を市場で売却し、それに加えて、基準価格(FIP価格)と市場価格の差額に相当するプレミアムを受け取ります。これにより、市場価格を意識した発電行動が促され、再エネの競争力強化と電力系統の安定化に貢献することが期待されています。
FIP制度が再エネ事業者に与える影響
FIP制度への移行は、再エネ事業者にとっていくつかの重要な影響をもたらします。
1. 収益の不確実性の増加
FIT制度のような固定価格での買取ではなくなるため、市場価格の変動が事業者の収益に直接影響します。市場価格が低い時間帯に発電量が多い場合、プレミアムを加えても収益が減少するリスクがあります。
2. 発電予測と計画値同時同量制度への対応
FIP制度下では、事業者は発電量を事前に予測し、その計画と実際の発電量を一致させる「計画値同時同量」が求められます。計画と実績に差が生じた場合、インバランス料金が発生する可能性があります。精緻な発電予測技術やアグリゲーション機能が不可欠となります。
3. 電力市場やアグリゲーション機能の活用促進
市場で有利な価格で電力を売却するためには、電力市場の動向を把握し、適切なタイミングで取引を行うスキルが必要となります。また、個々の小規模な再エネ電源をまとめて管理・制御するアグリゲーション事業者の活用や、自社でのアグリゲーション機能の構築が重要になります。
ポストFIT・FIP時代への具体的な備えと新規事業機会
これらの変化に対応し、ポストFIT・FIP時代における事業の持続可能性を高め、新たな機会を捉えるためには、以下の点が重要となります。
1. 精緻な発電予測技術の導入・連携
AIやIoTを活用した高精度な発電予測システムを導入するか、専門のサービス事業者と連携することが必須です。これにより、計画値同時同量の達成率を高め、インバランスリスクを低減できます。これは、新規事業として発電予測サービスの提供や、予測技術を持つ企業との連携といった機会にも繋がります。
2. アグリゲーション機能の強化
自社で複数の電源をまとめて管理・制御する体制を構築するか、既存のアグリゲーション事業者と連携します。これにより、市場取引を有利に進めたり、VPP(バーチャルパワープラント)構築に貢献したりすることが可能になります。アグリゲーション事業自体も、ポストFIT・FIP時代における重要な新規事業領域です。
3. 多様な収益確保戦略の検討
電力市場での取引に加え、特定の需要家との長期契約(PPA)、自家消費の促進、蓄電池と組み合わせた充放電最適化による追加収益など、収益源の多様化を図ります。特に法人向けPPAは、需要家と再エネ事業者の双方にとってメリットがあり、拡大が期待される分野です。
4. リスク管理体制の構築
市場価格変動リスクやインバランスリスクに対するヘッジ戦略(電力市場でのヘッジ取引、保険商品の活用など)を検討します。
5. デジタル技術の積極的な活用
発電所の遠隔監視・制御、データ分析による運用最適化、需要家とのコミュニケーションツールなど、デジタル技術は事業効率化と新たなサービス開発の鍵となります。
これらの備えは、単にリスクを回避するためだけでなく、新たな事業機会を生み出すための基盤となります。例えば、高度な運用ノウハウやデジタルプラットフォームは、他の再エネ事業者へのサービス提供という形での新規事業に展開可能です。
まとめ
ポストFIT時代における再エネ政策の中心は、FIP制度への移行です。これは再エネ事業者に収益の不確実性増加や計画値同時同量への対応といった課題を突きつけますが、同時に、精緻な運用、市場連携、デジタル技術の活用といった新たな競争領域を生み出します。
エネルギー関連企業の新規事業開発担当者様にとって、FIP制度の詳細な理解と、それに基づく事業戦略の再構築は不可欠です。本記事で述べたような具体的な備えを進めることで、ポストFIT・FIP時代の変化を機会と捉え、持続可能な再エネ事業、ひいては新たなビジネス領域を確立することが可能になるでしょう。今後の政策動向や市場環境の変化を注視し、柔軟かつ戦略的に対応していくことが求められます。